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2015年8月29日 (土)

女王の手

カナダのカルガリーにいる時、英国のエリザベス女王を見かけたことがある。と言っても、バスを待つ人混みの中にとか、ショッピング・モールで買い物をされていたとかではない。

平日の昼下がり、バリュー・ビレッジ(リサイクル・ショップ)に行こうと、Cトレインの駅に向かって歩いていた。カルガリー・タワーの真下にさしかかると、そこから大通りを挟んで両側に大勢の人だかりが見えた。いつもの閑散としている様子とは大違いで、何やらただ事ならぬ雰囲気と妙な緊張感が漂っていた。
歩みを止めてその中の一人に尋ねてみると、なんとエリザベス女王がカルガリーを訪問中でこの道を通るらしい。

私がそれまでの人生で見かけた有名人は、太秦映画村でサインをもらった松平健だけだった。なので、どうしても一目拝んでおかなければと思い、人混みに身体を捻りこんで辛抱強く待つことにした。もちろん買い物の予定はキャンセルである。

しばらくすると、遠くから歓声が上がり、警備のバイクが通り過ぎていく。そして高級車の隊列がやってきたのだが、どの車両に女王がいるのか分からない。これは公式のパレードではなく、ただの移動に過ぎない。その場にいる全員が、興奮と焦りの中、見逃してなるものかとじっと目を凝らす。隣のお婆さんは勘違いして、お付きの人の車両に声援を送っていた。

すると、ひと際豪華な車が見えた。窓が開き、そこから白い手がひらひら揺れている。女王は背もたれ
に深々と寄りかかり、完璧な笑顔と所作で手をひらひらと振っていた。凛々しい顔立ちはテレビで見たままである。彼女の放つ気品やカリスマ性を一瞬のこととはいえ肌で感じることができた。

カナダはイギリスの支配地だったが、敵意というよりは敬意と友好の念が強い。一方で、隣国のアメリカに対しては不満や嫌悪感の方が強い。「brain drain」(頭脳流出問題)や移民の問題を含め、経済的、政治的な軋轢があるようである。日韓関係に限ったことではなく、程度の差こそあれ、どこでも隣国同士は仲が悪いのである。これは「世界共通あるある」なのかもしれない。

女王の車が行き去って、群衆は流れだし、一般車両の往来が再開された。私も駅へと歩を進める。目の前に聳えるカルガリー・タワーを見上げて、そのまま西の方に視線を移していく。霞の中にロッキー山脈が凛と居座っている。まるで車中のエリザス女王のようだった。
子供の時からお婆さんになるまでずっと女王であり、ずっとイギリスの歴史を背負ってきたのだ。あのゆらゆら揺れる白い手を思うと胸が熱くなった。

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