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2017年5月15日 (月)

Shrug Shoulders

先日、あるうどん店の駐車場に消防車を止めて消防団員が昼食をとっていたことがニュースになり非難されていた。月並みなことは言いたくないのだが、「バカらしい」や「どうでもいい」という言葉しか出てこない。詳細は分からないにしても、むしろ「お仕事ご苦労様です」「昼食時までも万一に備えているんだな」という気さえする。この程度が不祥事ならば、カナダでは毎日謝罪会見である。

カナダはカナダで極端なのだが、たとえば警察官がパトカーを路駐してスタバでコーヒーを飲んでいたり、バスの運転手が停車中にマック(マクド)に入ったかと思えば、ハンバーガーを頬張って戻ってきたり、日本ではあり得ない光景を何度も目のあたりにした。仕事はしょせん仕事である。仕事に人生を捧げるとか、家族との時間を犠牲にしてまで働くとかいうことはないし、勤務中であれ、食いたい時には食う、飲みたい時には飲む、休みたい時には休む、というスタンスらしい。

特にバスの運転手は、コンプライアンスが緩いのか、あるいはそれを遵守する運転手のモラルが低いのか、やりたい放題だった。日本では乗客との会話は厳禁だが、カナダの運転手はお喋りで誰かれ構わずよく話しかける。また、バス停以外のところで乗客を降ろしたり、逆にバス停の客を無視したり、ルートを間違えたり、近道したり、外輪差と内輪差から右折時に縁石にのり上げたりと日本ではありえないことだらけであった。

しかしながら、裏を返せば短所は長所である。たとえば年寄り臭いかもしれないが、バスを乗り降りする際にきちんと挨拶が交わされる。そこに学校の「あいさつ運動」のような強迫観念や不自然さはない。朝の乗車時にはお互いに"Morning"と挨拶を交わす。降車時にも"Thanks"と声をかけると、"Have a good one(良い一日を)"と返してくれる。当初はものすごく恥ずかしかったが、バスから降り立つと「よし今日も頑張ろう」と引き締まった気持ちになった。挨拶は気持ちが良いということを、30歳を目前にして知ったわけである。

毎朝、同じバス停から同じ顔触れが乗ってくる。寝坊してバス停に着くのが遅れても、運転手がその姿を視認すると待ってくれる。いつも乗ってくる小学生がバス停にいないので、運転手はバスから降りてその子の家まで行き、手を繋いで戻ってきたこともあった。一番前の席に座るとガムをくれたり、天気やら、どこから来たのやら、勉強の具合はどうだと話しかけてくれたりした。これは私にとっては大きくプラスだった。

とにかく良いことも悪いことも、様々な思い出が「バス」にはある。ウイニペグ、カルガリー、エドモントンのバス網はいまだに覚えている。何番のバスがどこを走り、その路線沿いにはどんな店があるのかなどもいまだはっきりしている。その当時の記憶力が優れていたからではなく、バスを乗りこなすには「記憶力」をはじめ「方向感覚」、「情報収集能力」、そして何より「勇気」が必要だったからだ。

カナダのバス停は日本のようにいちいち名前はなく、故に次の停車駅を告げる車内アナウンスもない。つまり外を集中して眺めていないと現在地や降りる駅が分からなくなる。住宅街などは特に特徴的な建物がないので、バスの中に居ながらにして迷子になる。さらにこれが夜になると、視界から入ってくる情報は限りなくゼロになるので完全にパニックと化す。幼稚園児のように(違う意味で)ドキドキしながら窓にかぶりついていなければならない。

カナダに渡って間もなく、学校からの帰宅途中、それこそ降りるバス停を乗り過ごしてしまったことがある。理由は上述の通りである。気付いた段階で降りれば良さそうだが、すっかり陽は落ちていて車外は真っ暗である。バスのヘッドライトが闇を切り裂きながら、「嵐が丘」の冒頭にあるような殺風景な荒野を走っていた。分かる人には分かると思うが、こうなると怖くて降りるに降りられないのである。

そうこうしているうちに、やがてバスは地の果てのようなターミナルにたどり着いた。私は積荷のごとく運ばれるがままである。重く疲れた身体を引きずるようにして後方のドアから降りようとした。そのとき、低く唸るエンジン音に混じって運転席から逞しい声が届いた。 "Hey!.Are you OK?"

 運:「家はどこだ?」
 私:「ジャパン!」
 運:「ノー、カナダのどこに住んでいるんだ?」
 私:「ウイニペグ!」
 運:「分かっている。ここもウイニペグだ。ウイニペグのどこかって聞いているんだ!」
 私:「アイ・ドント・リメンバー!」
 運:「・・・(絶句)」
 私:「バット・アイ・ハブ・メモ!」
 運:「よし、それを見せて見ろ」
 (慌ててリュックからメモを取り出す)
  私:「ショー・ミー、ショー・ミー!(「見て、見て」のつもりだが、実際は「見せて、見せて」)」
  運:「違う、お前が俺に見せるんだ!」
 
という情けないやり取りの最中、運転手が幾度となく"shrug"のジェスチャー(手のひらを上に向けて肩をすくめる所作)をした。これがカナダで見た初めてのリアル"shrug"だった。その後、彼は哀れな異国のおっさんに同情してか、親切にもホームステイ先の近くまで送ってくれたのだった。
 
 

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