ハロウィン
週末の多摩センターはハロウィンということもあり、(普段はお年寄りだらけであるが)仮装を施した子供で溢れかえっていた。この数日間における街の平均年齢はぐっと下がったのではあるまいか。
個人的には鬱陶しいなと思いながらも、カナダで迎えたハロウィンの仮装大会で優勝した輝かしい栄光を思い出した。その当時ハロウィンという文化は日本に浸透しておらず、仮装せよと言われても何を着ていいのかわからなかったし、高い衣装を買う余裕もなかったので、"Value Village"というsecondhand shop(古着屋)に赴き、ヒマワリ柄の3ドル(300円)のワンピースを購入した。当日、ホストマザーに口紅を借りて、坊主頭にウイッグをのっけて本番にのぞんだら、優勝したのである。審査員いわく、ある意味一番怖かったそうだ。
ハロウィンとは、ネイティブ・カナディアンの「お盆(先祖を偲ぶ日)」であり、浮かれ騒ぐ以前にきちんと彼らに敬意を払うことを忘れずにとホスト・マザーに窘められた。またこの時期、学校の授業でも彼らの歴史や諸問題を取り上げて多くのことを学んだ。
例えば、reservation問題というのがあって、「予約」という意味で馴染みのある語だが、カナダではネイティブ達の「居留地」という意味で使われることもあり、その際はかなりコントロバーシャルな響きを持つ。 1700年代後半にヨーロッパから多くの移民が流れ込んできた際、ネイティブの住む集落を、法律で強制的に寒くて不便な北方に移したのである。
カナダ政府はreservationにネイティブを追いやる代わりに、毎年一定額の補償金を支払い、また税金免除や大学の学費免除、公共交通機関や医療機関の大幅な減額(地域によっては無償)など、いくつもの優遇措置(補償制度)を設けてきたのだが、今度はこれに「ずるい!」やら「怠け者め!」と腹を立てる人達(主に白人)が出てきたわけである。
さらには、ホームレス問題、drug addict(麻薬中毒)の問題などにも深く結びついている。ネイティブの若者らはreservationから都会にやって来るものの、都会生活に馴染むことができず、仕事も学業も頓挫してしまう。やがて、麻薬や酒に溺れ、ホームレスになり果てる。確かに市街地を歩く度に、酔いどれたネイティブのホームレスが地べたに座り、帽子をひっくり返して金を求める光景に遭遇した。
このようなことを理解している日本人がどれほどいるのか分からないが、陽の当たる部分を採り上げるならば、その陰の部分も少なからず採り上げねばなるまい。仮装大会で優勝し、パンプキンパイを食べまくり、お菓子を貰いに来た子供たちにミカンをあげて怪訝な顔をされ、ジャックランタンを彫るのに張り切り過ぎて腱鞘炎になりかけた私ではあるが、その夜、反省と複雑な思いから、ホームステイ先のベッドで正座をし、ネイティブ達の過去と現在を偲び、また彼らの行く末を案じて手を合わせてみたりした。
ハロウィンで浮かれ騒ぐなと言うわけではない。また、彼らに同情しろとか、何か良い案を絞り出せとか言うつもりもない。ただ無知なまま大衆文化に迎合するのではなく、この日を機に少しでもいいから彼らのことを知ってあげてほしいと願うわけである。
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