フォト
無料ブログはココログ
2025年6月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

« ぎっくリ腰 | トップページ | 蜜柑マンゴー戦争 »

2023年6月22日 (木)

Go Up in Smoke

私はタバコが大嫌いだ。故に「歩きタバコ」をしている人を見ると無性に腹が立つ。今日は最悪なことに、そんな歩きタバコをしているオッサンの後ろを歩かなければならなかった。臭いし、健康に悪いし、何よりもオッサンの吐いた空気を吸いたくはないのである。屁をしながら歩く人の方がよっぽどましである。

以前驚いたのは、近所の某大学に行くと、灰皿がいくつも置いてあり、その周りを大勢の学生が取り囲んで喫煙していた。禁煙が進んでいる世の中にあって異世界のような、いやむしろタイムスリップした昭和のような光景だった。うちの塾生たちは、こんな大学には行かないでほしいし、見かけや興味本位だけで喫煙するアホな大学生にはならないでほしい。間違っても、タバコを吸うことが「イケてる」「オシャレじゃん」みたいな勘違いを犯してくれるな。ちなみに英語では、こういうアホな大学生を"fashonable smoker"(カッコつけ喫煙者)と言って馬鹿にする。

カナダには、このような「カッコつけ喫煙者」はあまり見かけない。まず一箱1,500円以上と非常に高額なので気軽には手が出せないからだ。また、カフェやレストランに留まらず、バーでもカジノでも、屋内での喫煙は法律で完全に禁止されている。日本の喫茶店や新幹線のような「喫煙ブース」みたいな逃げ場もない。カナダ(ウイニペグ)の冬は-20℃になるのだが、それでも喫煙者は屋外で吸わなければならない。余程の中毒者でない限り、いったい誰が凍え死ぬ危険に晒されながらタバコに火を灯そうとするだろうか。自分の命の火が消えそうなのに。また身を震わせながらタバコを吸っている姿は、オシャレどころかむしろ惨めに映る。このように、カナダは幸か不幸か、決して軽いノリなんかではタバコに手が出せない環境にある。

カナダのウイニペグに留学中、わざわざアメリカまでタバコを買いに行ったことがある。断っておくが、その当時も今も私は喫煙者ではない。喫煙者である友人のお供をしただけである。カナダのタバコがあまりにも高いので、アメリカまで赴いて安いタバコを大量に仕入れようという魂胆だった。車で3時間ほど南下するとアメリカの国境があり、そこを越えるとノースダコタ州のフォークスという田舎町に出る。彼のタバコへの情熱と大胆な実行力と底知れぬアホさ加減をぜひ見てやろうとついていったわけである。フォークスは田舎町なので観光的な見どころは何もない。というかアメリカにいるのかさえ疑わしくなるほどカナダと変わらぬ風景が広がっていた。なので星条旗を見つけては写真を撮ることで何とかアメリカにいることを実感しようとしていた。また「アメリカと言えば、マックだ!」とマクドナルドで昼食をとることにしたが、カナダと変わらぬどころか、日本とも全く変わらぬビックマックが出てきた。

それからコンビニに立ち寄り、念願のマルボロ(タバコ)を大量購入(20カートン)した。店員は訝しんでいたが、「カナダのタバコが高いからわざわざ買いに来たんだ」と友人が言うと"Crazy!"と爆笑していた。後ろに並んでいたお爺さんも爆笑していた。彼の予算を越える総額になったからか、いくらか貸してほしいと頼まれて、50ドル(5,000円)貸した。ここまで連れてきて貰った恩もあるし、これから連れて帰ってもらわなければならない事情もあるからだ。それから大量のタバコを後部座席に積んで帰路についた。ミッション・コンプリートである。車が揺れるたびに崩れ落ちるタバコの山が、段々宝の山に見えて愛おしくなってきた。繰り返すが、私は別に喫煙者ではない。

日はすっかり暮れていた。暗闇の中、遠く前方にテールライトの列が見えてきた。国境の税関である。税関で条件反射的にナーバスになるのは私だけではあるまい。税関職員:「アメリカに滞在した目的は?」友人:「観光と買い物です」職員:「何を観光したの?」友人:「星条旗とマクドナルドです」職員:「そう。では、アメリカで購入した品物は何?」友人:「タバコです」ここで職員の顔色が変わり始める。職員:「それは車内にある?」友人:「はい、あります」職員:「量は?」友人:「20カートンです」職員:「(無線で何かを喋った後)全部、没収します!」あろうことか、タバコや酒類のカナダへの持ち込みは禁止だったのである。車は別の場所に誘導され、私たちのボディチェックと共に車内を隈なく調べ上げられた。友人の性格からして、「19カートンです」と一箱ごまかして申告する可能性もあったが、正直に言ってくれて本当に良かったと思った。

宝の山(タバコの山)がなくなった車内は空虚で、私の心もどこか空虚だった。これから3時間の帰路を思うと気が重くなった。二人に会話はなく陽気なラジオだけが鳴り響く。友人はカナダのタバコを吸いながら、鼻歌混じりに運転していた。ふと彼が「諦めが肝心だよね」と言ったので、適当に「そうだね」とだけ返した。暫く窓外の闇を見つめながら、自分のこれまでの人生やこれからの人生を考えていると、ふと「私の貸した5,000円は返ってくるのだろうか」という疑念がよぎり始めた。様々なシュミレーションを頭の中で重ねてみる。が、先程の「諦めが肝心」という台詞が、実は没収されたタバコにではなく、私の貸した5,000円に向けられたものだと悟った時にもはや考えるのをやめた。彼の吐いた煙が車内を漂って、やがて窓外に吸い込まれていく。それを眺めていると、遠い昔、"Go Up in Smoke"「水泡に帰す」というイディオムを習ったことがふと思い出された。

Cimg0144 Cimg0140


« ぎっくリ腰 | トップページ | 蜜柑マンゴー戦争 »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« ぎっくリ腰 | トップページ | 蜜柑マンゴー戦争 »